「なに、違うの? 避難所じゃなければ、どこよ?」

不安やら焦燥感やらなにやら色々なものが、私の心の中で混ぜこぜになっている。これでも自他ともに認める小心者だ。気持ちを落ち着かせながら、隣のクローゼットの前に移動した。

「それにしたって……」

独り言を漏らしながらクローゼットを開けかけたところで、私は唖然とさせられた。

はい?

私には驚くと“はい?”と呟いてしまう癖があったが、まさに今がその状況だ。

まったく予想もしないものがクローゼットに所狭しと置かれている。

二段重ねになった厳つい機械が私の前に現れた。

ここが避難所である可能性が潰(つい)えた瞬間でもあった。

「なんなの、いったい……」

ボタンやスイッチとパネルみたいなものがそれぞれの機械の前面に並んでいる。電源はすでに投入されていて、小さなランプが点灯、あるいは細かく点滅している。機械から螺旋状に巻かれたコードが延びていて、そのさきにヘッドホンが転がされていた。

通信機器?

咄嗟に思った。

私の父親がアマチュア無線の愛好家で、我が家の物置に埃の被った無線機器が放り込まれているのを見かけたことがある。あの無線機器が目の前にある二段重ねの機械と雰囲気がよく似ている。

「取扱説明書?」

機械の脇に紙の冊子が置かれていた。この機械を操作するのに必要な手順が記されているに違いない。パラパラと冊子を捲ってみると、通信の開始と終了について簡単に図解されている。

「おかしいでしょ!」

冊子を叩きつけ、私は機械に抗議した。勿論、機械が私の話に耳を傾けてくれるわけでもない。

「あり得ないでしょ。ここがどこだかわからないし、クローゼットを開ければ変な装置が現れるし。取扱説明書だかなんだか知らないけれど、絶対におかしいって!」機械に関わるのは後にしたい。この状況を把握することが最優先事項に感じられてならなかった。

「落ち着くのよ、自分」

テーブルの抽斗(ひきだし)まで開けて確かめたが、メモ帳とボールペンくらいしか見当たらない。

この場所を示すような手がかりがなに一つない。

「生きてれば、色々なことがあるってものよ」自分を無駄に鼓舞する。

続いて洗面所、トイレ、バスルームに向かった。

当然のことではあるが、洗面所には鏡がついている。

鏡で自分の姿を見て“おや?”と首を傾げずにいられなかった。この混乱で今の今まで気がつかなかったが、首に奇妙なものが巻かれている。ベルトみたいな幅三センチほどのチョーカーだ。薄っすら厚みのある金属でできているため、ペットの首輪を彷彿とさせる。

「なに、これ?」

外そうとあれこれ試みたが、どう外せばいいのかわからない。とりあえずこれも後回しにしたい。

「もう、なんなの!」トイレとバスルームはなんの変哲もないトイレとバスルームだった。

いつまでここにいても埒が明かないことは容易に推察できる。一旦部屋を退室し、現在の場所を確かめるのが先決と感じられた。

 

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