【前回の記事を読む】地震で救助されたはずなのに、途中で意識を失った——目覚めると、窓一つない部屋に隔離され、首には幅3センチの金属の輪が……
問題篇
COUNT 9 エ
出入口に向かうと、ドアの前で足を止めずにいられなかった。なぜならそのドアに奇妙な張り紙がなされていたためだ。張り紙というのが正確な表現ではなく、実際にはドアに直接記されている。
文字が小さく、目を凝らして見ないとわからない。
張り紙には次のように書かれていた。
琴音さん、あなたはエンジニアです。
あなたは外部にいる特定の人物と連絡を取ることができます。
なお、あなたの職業はあなたしか知りません。
はい?
私はいつもの口癖を口走らずにいられなかった。
「はい?」
もう一度、今度は声に出した。
琴音とは私だ。私の名前は川原琴音。張り紙が私に対して呼びかけているのは間違いない。あなたはエンジニアというが、私はしがない専門学校生だ。
漫画家になりたくて、そういう関係の専門学校に通学している。アルバイトはしているが、メイド喫茶だ。
年甲斐もなくフリルのついた衣装を着て、ときには猫耳を頭に装着して、お客様に向かって猫撫で声で“いらっしゃいませ、ご主人様。今日はどのようなものをお召し上がりになりますか?”などと応対するのが、私の仕事だ。
他の地味なアルバイトを入れることもあるが、それ以上でもそれ以下でもなく、エンジニアのエの字も関わりがない。
外部にいる特定の人物と連絡を……?
というか、私は特定の人物としか連絡を取れないの? それってどういうこと? 連絡を取りたければスマートフォンを──と思い、取り出そうとしたものの、愛用のスマートフォンを入れたバッグが見当たらない。ここに運ばれる途中で泣き別れる羽目になってしまったらしい。最悪……。
張り紙はさらに、私の職業は私しか知らないと宣(のたま)う。