マンションの重い玄関の扉がバタンッと閉まると、サトシは父さんの後を追うように小走りで玄関の外まで行って、確実に父さんが出かけたことを確認して戻ってきた。そして自分によそわれた山盛りのウロコ入りカレーの皿を持ち、涼しい顔をしてスタスタとトイレへ入っていった。
数分後、サトシは空になった皿を手にして出てくると、台所の流しに持って行って洗ってしまった。私とタエが目を丸くしてその様子を見ていると、兄貴らしい口調でこう言い放った。
「オマエらも早くトイレへ流してこいよ。こんなもん食えるかよ。ムリ! ムリ!」 私とタエはお互いに顔を見合わせて思わず、「さすが! お兄ちゃん! アタマ良い!」と歓喜の声をあげた。こんなまずいものを食べなくていいという嬉しさが込み上げて、私たちは山盛りのウロコ入りカレーをトイレへ放り込むと水洗レバーをひねった。
その瞬間、サトシが慌ててトイレに駆け込んできた。
「オイ! ドロドロしてるから、いっぺんに流すなよ! 便器が詰まるから少しずつ注意して流せよ!」
遅かった。トイレはみるみる油と濁った水であふれかえり、玄関脇の廊下まで、黄土色のドロドロした液体で汚染されてウロコが床できらきら光っているではないか。
その時、玄関から誰かが入ってきた。出かけたはずの父さんだった。玄関脇のトイレのそばで心臓が止まりかけている私とタエを一瞥した父さんは「サトシィ! この野郎!」と叫ぶや否や、傍らにいた長男の襟首をつかみ、カレー色に染まった床へねじ伏せて横面をひっぱたいた。
「きったねぇなぁ! 俺が帰るまでに全部きれいに掃除をしておけ!」。吐き捨てるように言うと、忘れ物の財布を手にして再びどこかへ出かけて行った。汚物まみれになったサトシがあまりにも可哀想で「お兄ちゃん、ごめんね。掃除はしておくから。お風呂へ入っておいでよ」と私が泣きながら言うと、サトシは悔し涙を流しながら風呂場へ向かった。それから床の掃除をし、トイレの詰まりも直した後で、私は鍋に残っていたウロコ入りカレーを全部トイレへ流して捨てた。少しずつ……。
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