第二章 自立
身体のあちこちに打撲と裂傷があっても、そう簡単に人間は死なない。パックリ割れた傷は縫った方が治りも早いけど、家庭内暴力ってちょっと面倒になるから病院には行けない。病院に行けば必ずケガの理由を聞かれるからだ。
医者には嘘をついてごまかしてもすぐにバレてしまう。転んだのか階段から落ちた傷なのか、なにか物で殴られたのかなんてことはすぐにわかってしまう。すると傷害容疑事案として警察に通報されてしまう。
〈こんなことも父さん直伝の知恵だけどね〉
「父さんが捕まればどうやって生活するんだ? ニッポンの警察は民事不介入なんだよ。家の中の揉めごとは家の中で解決してくださいっていう法律なの、ニッポンは」
父さんは母さんが殴られて「警察を呼ぶ!」と電話に向かって走るたびに、後ろめたそうによくそう言っていた。
〈父さん、あなたってメチャクチャですよね。揉め事はあなたが起こしているのですし〉。まあ、そんなことを言えば、また暴れるのが恐ろしくて、もちろん誰もそう言えなかった。
私があまり物ごとに動じなくなってきたのは他にもいろいろと理由があった。
何度も母さんが男と家出をするたびに、私たち家族は引っ越しを繰り返した。小学校を私は三回、四歳上の兄のサトシは六回も転校した。
小学六年で最後の転校をした時、サトシは学校の新しい友達に良い顔をしたかったのだろう、クラスの男の子達に「女の裸を見せてやる」と言っては彼らを家へ呼び、私やタエを何度も部屋に閉じ込めて素っ裸にしようとした。
しかし嫌がる私たちがギャンギャン泣き出して白けてお開きになるので、友達が帰った後でサトシは私たちをいつも殴った。顔を殴ると母さんに気づかれるからと、あいつは背中や脇腹といった服で見えない場所を殴る。サトシの妹いじめは段々とタチが悪くなっていった。
でも、サトシが妹達をかわいく思えない憎しみの目で見るようになったのも、思えば仕方がなかったのかもしれない。
▶この話の続きを読む
父の最悪の“英語の授業”…「箸は英語で?」兄はいつも答えられず、風呂場に連れていかれた。鼻血で部屋を汚さないための風呂場へ…
【イチオシ記事】熱いキスをすると彼女の頬が染まり、どきどきしているのが伝わってきた。僕は激しく、優しく彼女を抱いて…
ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp