【前回の記事を読む】「妊娠したことにするのです」妹を使って老人から1億円を奪おうとする男の計画とは……?
灰色の風が吹く
懐は暖かくなったし、浮き浮きするような気分も湧いてきた。結城はこれまでの生活とおさらばしたいと本気で思い始めていた。
臙脂色のテーブルと椅子を備えた小綺麗な雰囲気の喫茶店だった。店内を見回すと、テーブル席が二十席ほどあったが、二人連れの客が三組いるだけだった。結城と間下は向かい合って座り、左手奥にいる一組の客の様子をうかがっていた。
久美子と黒川が談笑していた。二人はこの喫茶店で何度か落ち合っていたらしい。
黒川は年齢相応の見た目をした七十歳過ぎの細身の老人で、白いシルクハットを深くかぶっていた。ジャケットも白色で、今日も気取った老人ぶりを発揮している。黒川は久美子のご機嫌を損ねないように、姿をくらました理由について問い質していないようだ。
「あの老人なら脅しをかませそうだ」
紺色のスーツに身を包み、髪の形を七三分けに整えた結城が言った。
「慎重にやりましょう」
青色のジャケットを羽織った間下が言った。
二十分が過ぎた。久美子は険しい表情で例の件を話し始めたようだ。黒川は驚いた様子で、身を乗り出した。目を丸くしている。
久美子が結城と間下の両方をちらっと見やり、左手で髪の毛に触れた。猿芝居の開幕を告げる合図だ。結城と間下は席を立った。
「黒川様でいらっしゃいますか。弁護士の中内というものです。こちらは久美子さんのお兄様の聡さんです」
結城が口上を述べた。
間下は隣から椅子を一つ借り、三人並んで黒川と対峙した。