「誰かが好きと言ったものでも、自分が強くこうだと思っているものに触れたりすると、ずけずけ意見を言ってしまうんです。こんなこと、相手が嫌な気持ちになるに決まっているのですが、私はぜんぜん気づきませんでした。前にも話した、ようやく気づいたという自分の一面です。

誰かにまた不快な思いをさせるかもしれないと思うので、しゃべらなくなっていったのです。が、今は、中山さんにいずれ自分をさらけ出すと決めていますので、敢えて罪悪などという言葉を使いました。すみません」

「いきなり私は、大村さんの核心のひとつに触れてしまったのですね。そこまで正直に吐露していただいて、怒るなんてことはありません。気にしませんから、どんどん思いをぶちまけてください。武将のことや維新のことを聞かせてください」

「ありがとうございます。その前にコーヒーをいただきます」

彼はコーヒーを飲んで、一息ついていた。私は彼が話すのを止めてしまわないように気遣った。

「日本人は議論しない、議論下手だとよく言われます。しかし自分の思いと違うことを言われていちいち腹を立てていては、もうそれだけで人生ままならず、ではないでしょうか。まるで、少し気に食わない人がいると、寄って集(たか)って炎上するSNSのようなもの。寛容でも何でもありませんよ」

「そうですね、その通りだと思います」

彼は咳払いをしてから、ゆっくりと話し始めた。

「私は自分が読んだ本の範囲で蓄積した知識しか持っていません。また、本を読んだといっても、対立する見解を並べて整理したわけでもないし、結局、自分にとって気持ち良かった説を自己流で解釈したに過ぎません。それに、武将のことや維新のことは、小説で読んだことしかわかりませんよ」

「研究者でなければそのような本の読み方はしないと、私も思いますよ。本の中身の受け取り方は、まさに読者次第です」

「それに世に出回るすべての本を読んでいるわけではありませんし、私の意見は個人的な感想に過ぎません。中山さんも、ご自分でいろいろな方がお書きになったものを読んで、自分なりに考えてください」

「はい、わかりました」

「あのー、歴史小説が面白いのは、一人の男または男たちが、何かを成そうと思って生きた様を描いているからではないでしょうか。歴史年表に載っているような出来事や人物を、作家の皆さんが、周りのことも含めて熱くお書きになるから面白い」

「まさにそうです」

「私も小中学生の頃は、豊臣秀吉を尊敬していましたね。好んで歴史小説を読みました。けれど、大人になってからは、戦国武将が残した言葉や武勇伝を引き合いにして『おいお前ら、〇〇はなあ!』などと、若者を説教する年配の方たちに反発心をいだきましたので、長く歴史小説から遠ざかっていきました」

「それはよくある話です」

 

👉『黒い渦 日の光』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】熱いキスをすると彼女の頬が染まり、どきどきしているのが伝わってきた。僕は激しく、優しく彼女を抱いて…

【注目記事】気が付くと既婚者の女性と2人きりで飲んでいた。記憶はないが、そのままホテルに行ったらしく…

 

ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp