■ホテル「外」にあるガレージで採集

エントランス付近の採集が一段落して、その後にエントランス前に広がるガレージで採集を行いたいと思い、階段を下りていきました。(やっとガレージに来ましたよ!)

テニスコート二つ分ほどの決して広いとは言えないガレージですが、その周辺には花壇や植木もあり、何かいるのではと思い近づくと、やはりここでも、この場所を担当している警備のおじさんに呼び止められました。

(おい〜……エントランスとガレージでいちいち警備員を分けるなぁ!)と思いつつも、ここでダメと言われたら本末転倒です。

しかし、先ほどのようにまた一から採集目的などをじっくり話すのも面倒くさい……と思いながらも丁重に話していると、タバコを持っている手が目にとまりました。

私はその時、作戦変更とばかりに何かの役に立つと考え持参していたタバコを手渡して、「ここで採集をさせてください」と率直にお願いしたのです。

すると、すぐに、今ふうに言うならば、「秒で」快諾してくれました(笑)。

私はタバコを吸わないのですが、当時の朝鮮の成人男性はほとんど全員吸うのではと思うほど愛煙家が多く、滞在時にウェイトレスの年下の女性から、「タバコを吸わない人を朝鮮では〈男〉と呼びません!」ときっぱり言われたほどです。

(そんな大雑把な〈男〉定義がこの世にありまっか?)とその時は愕然としましたが、タバコは健康問題以上の「文化的特性」があることを強く感じました。

ガレージでも十分に採集を行うことができましたが、驚いたのは、こんな街中で一見するとコンクリートと花壇のような環境でも、オサムシ類が採集できたことです。林や山中で生息しているような印象を勝手に持っていただけに強い違和感を覚えました。

タバコをもらえた守衛のおじさんは気を良くしたのか、その後にいろいろな昆虫情報を提供してくれました。

特にカゲロウが夜中に電灯に飛んできては朝になると太陽の光を浴びてまた飛んでいく話など、よく観察しているなと感心しました。

このように、朝鮮における採集活動では、守衛さんやさまざまな人からの情報が、研究を進める上で大変有益になりました。

こうして到着したその日に、ホテルの「内外」で採集を行った私ですが、その日のうちにまんまと私自身がホテルで「名物」と化していました。

しかし、恥ずかしいというよりむしろ誇らしく思えました。朝鮮では昆虫類に関する研究がまだまだ活発ではないので、一人でも多くの人に「こんな人間もいまっせ!」ということをアピールできたからです。