【前回記事を読む】旅館横の木材加工場で、電灯の下に「大き目の平たくて黒い物体」が……10m先から近づき、手に取った瞬間、その輝きと重みで腰が抜けた
1回目の訪朝
3 いざ行かん! 妙香山(ミョヒャンサン)へ
■あまりにも重たかった「拾い物」
日本では天然のオオクワガタは非常に見つけることが困難で、今では本種を採集するためだけに特化した精鋭グループがあるほどです。その生息数の減少から、種の保存の必要性・重要性をランク分けしたリストであるレッドリストに掲載されている地域も多く、大変希少な存在になってしまいました。
そのオオクワガタを、旅館周辺の散歩程度であっさり得てしまったのです。
私は興奮しながら、そのオオクワガタを加工場の作業員に見せて恐る恐る尋ねてみました。
私:「あの〜、もしかしてこの虫……見たことありますか?」
作:「もちろんさ。知ってるよ」
(よし!)
私:「結構頻繁に見たりしますか?」
作:「あぁ! 木を切りに行く山でよく見かけるよ」
(うぉ〜〜! オオクワガタおるんや! 妙香山ってやっぱりマジ半端ねぇ〜〜〜!)
私:「採ったりはしないんですか?」
作:「いや、しないね。むしろ邪魔なくらいさ」
(……うん? 邪魔?? ……これまで朝鮮で見てきた光景をもう一度おさらいすると、平壌でタガメを足で蹴り潰してた子どもたち、ゲンゴロウをホースで蹴散らしたり、カブトムシの頭をもげと注意してきた守衛さんたち……ということは、もしかしてこの展開でいくと……)
私:「あの〜、邪魔って……」
作:「そうだよ。あいつら、木を傷つけるからね。だからよく作業中にいたら木と一緒に切っちゃうんだ。このチェーンソーなら簡単さ!」
……
(ははぁ〜ん……、著者&読者、とりあえず落ち着こ。これはしょうがないねん。
オオクワガタは確かに木を傷つけるし、祖国の人からしたら虫なんかまだまだ意味不明な存在やねんから。そうやろ? それを俺が勝手に一人で捕まえて喜んでるだけやん。むしろ虫採って大喜びしてる俺のほうがおかしいねんってか、これくらいまだ祖国には昆虫がおるってことや! よし、我慢! 耐えよ!)
私は自問自答の中で平常心を保ちながら、手の平に転がるオオクワガタとその作業員を見ながら思いました。
一方は歓喜し大はしゃぎ、そして一方では厄介者としてしか見ていないこのお互いの関係、価値観の大差が、私の思考においても、感情においても大変貴重な経験になっているんじゃないかと。
ファーブルは昆虫の生態を詳細に観察し、それを昆虫記としてまとめました。
私は朝鮮の昆虫とその昆虫に対する朝鮮の人々の考えや話をまとめてみたい。
こう強く思った瞬間であり、これが契機になって紀行文を書くようになったのです。
まさにこの本執筆の「第一歩」的な出来事です。
それにしても「昆虫式」の答えが「オオクワガタ」って……幸せ過ぎる(笑)。