ゆっくりと入り口のドアが開き、片田が出勤してきた。能面のような無表情は毎日変わらない。白髪混じりでいつも寝癖がついている。

おまけに髭も三日に一度くらいのペースでしか剃られてないのか、いつ見ても中途半端な伸びかたをしている。

どこにでもあるような特徴のないおじさん風の銀縁メガネの奥に見える眼差しは、焦点がどこにあるのかさっぱり分からず、現実の世界にいるのか幻想の世界にいるのか判別がつかない独特の雰囲気を醸し出している。

午前中は何とかオフィスにいるのだが、午後の時間には必ず行方不明になってしまい、三時間くらい平気で帰ってこない日が度々ある。よく言えば一人で高次元の思考を巡らす時間を大切にしている。と、言えなくもないのだが、片田の悟り切ったようなマイペースぶりに拓也は半ばイライラしながらも長いサラリーマン人生色々な人間と巡り会う。

こんなことは日常茶飯事と諦め、片田とはそれなりに上手く付き合っていくしかないと考えている。年上でもあるし、一応、今回のプロジェクトリーダーでもあるのだから。

片田同様、柳井もこのプロジェクトには懐疑的で、「はてなマーク」を頭上に漂わせながら日々を送っている。おまけに極度の面倒臭がり屋。二言目には「面倒臭い!」を連発する。しかも力強く。

よく言えば、無駄なことはせず効率的に生きようとしている、とでも言えようか……。やんわりとお願いすればイヤイヤながら仕事を引き受けてくれるので、その点に関しては、助かっているのである。

新年度もあっという間に三ヶ月が過ぎた。今日は、経理部のマネージャーが東京の本社から来るらしい。担当者二名の配属はまだ少し先のようだが取り敢えず、事始めの挨拶に来るということだ。

狭いスペースにこれから更に人間が増えるが、まあ、お互いにいい雰囲気で仕事ができればそれはそれで問題ないか、と拓也らはいつも通りの雰囲気で黙々と仕事をこなしていた。

片田はいつもながらヨレヨレの鼠色のポロシャツに色褪せたジーンズ。経年により、よく体に馴染んでいると言えば聞こえはいいが、膝の部分がもっこりしている。

柳井は、ワニのマークが刺繍してあるネイビーのラコステのポロシャツに同じく経年劣化著しい色褪せたジーンズ姿だ。

 

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