「麻雀はたまにやったりするけど、こうして部として見ると、なんか緊張してくるな」

むしろワクワクしたような表情で涼はそう囁く。

「俺に関しては麻雀したことないんだけどな、ルールすら知らん」

それを耳にした桜歌がニコリと笑う。

「大丈夫、初心者でもうちは大歓迎だから」

ただ、表情や言葉とは裏腹にその雰囲気からはどこか引っ掛かる印象を受けた。

気のせいかと思いながらも開かれた部室内に視線を巡らせ、夜深は息を呑む。

最初に視界に飛び込んできたのは部室の窓側に設置された全自動麻雀卓だった。プレイヤーが自分で牌を並べる手打ち式とは違って勝手に牌が並べられた状態で卓上に出現する、夜深でも知っているなんかカッコ良くて便利な機械のやつだ。

それだけでもサラリーマンの初任給くらいの値段がすると聞いたことがあるが、さらに驚いたのは全自動麻雀卓の四つの角にはサイドテーブルが備えられていて、そこにビデオカメラが設置されていることだった。少し離れた別のテーブルにはノートパソコンまで視認できた。

想像をはるかに上回る充実した設備に言葉を失い、二人は尻込みしてしまった。だが、夜深や涼に緊張が走ったのは、ただ本格的な設備に圧倒されたからというだけではない。

「遅いぞ桜歌。部長のお前が見学に来た新入生よりも遅れてどうする?」

出入口付近には夜深や涼と同じ見学であろう新入生が数名いて、全員が委縮していた。

その最たる理由は、たった今渋い声で桜歌を叱責した顧問らしき教師が原因だった。

無精髭を蓄え、くたびれた濃緑色のスーツを着崩したおよそ教師とは思えない風貌のその顧問は、眼光が鋭く新入生を見定めているようで、明らかに威圧的だったのだ。

そんな緊張感の漂う中で、顧問とは対照的に桜歌は明るく言い訳をする。

「えーっとですね、たまたま出会った入部希望のこちらの二人が場所がわからなくて困ってるとのことだったので連れてきたとこなんです」

夜深は心の中でギョッとする。涼も似た感情を抱いているようだった。

ひりついたこの空間でよくそんな噓がつけたものだと、メンタルの強さに言葉を失う。

「噓をつけ、どうせ無理やり連れてきたんだろ」

しかもバレバレだった。

桜歌の「えへへ」という常人ならばほだされそうな、だが目の前の顧問には絶対に効かないであろう誤魔化しに、予想通り「はぁ」と重い溜息が返ってくる。

「まあいい、入部希望者はこれで全員揃ったんだな」

「はい、ここに居る九名が希望者です」

初耳だったのは果たして夜深と涼だけか、悪徳商法に引っ掛かるとこんな気持ちになるのかもしれない。

気のせいか、見学に訪れたつもりだったのだろう、ほか七名もざわざわしていた。

だが、そんな様子を些細な問題だと鼻で笑うように、顧問の口からはさらに予想外の発表がされる。

「では、お前達には入部テストを受けてもらう」

思わず桜歌を見やる。するとたまたま目が合い、困ったような笑顔を返された。

いや困っているのはこっちなんだけど、と口をついて出そうになる。

「入部テストは一〇日後から三日間。筆記、実技、面接の順で行う」

今度こそ本当に新入生達はざわついた。

誰一人として入部テストが行われることを聞いていなかったらしい。

 

👉『千本夜桜』連載記事一覧はこちら

【前回の記事を読む】「ようやく見つけたよ」放課後、俺を探しに来た先輩――彼女が放った“ひと言”が予想外すぎた

【イチオシ記事】畳の上で変なことをしてくる兄…「息が臭い」と思ってると母がやって来た。…すると兄は慌てて手を離し、部屋から出て行った。

 

ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp