早坂の人望はうなぎのぼり、中学生からはヒーローのように慕われ、大学生からは一目も二目も置かれた。会議の時だけは、まるで彼がリーダーのようだった。
彼もその風潮を気に入っているようで、このところ林を軽んじるような言動が増えた。一部の大学生はそんな態度が鼻についた。
勘のいい連中は早坂がしばしば泉の側にいることにも気付いている。早坂は、頭は切れるしルックスもいい。泉さえよければいいカップルになるのではと見られなくも無かった。当の泉はまったく無頓着であるが。
大学生の中に込み上げつつある早坂への嫌悪感――誰も口にしなかった。よって噂にも上らない。うっかり誰かに言い、巡り巡って当人の耳に届いたら、いろいろと面倒である。
今の笹見平で反感・孤立は命取り。ここには憲法も法律も無いのだ。
法律が無いことは、目下特別に意識されているわけではない。当人たちが現代から持ち込んだ倫理観や常識だけが頼みである。
「ごめんで済んだら警察は要らないよ!」
「残念でした! 縄文時代に警察はいませーん」
このセリフは彼らが無秩序にいることを理解している証拠だった。