【前回の記事を読む】「あなたは本当は死んでいて、死の中で自分は死んでいるとわかっているはずだから、私とおいで」その言葉に呼ばれるように…

猫は旅をする

人々は自分を避けているように感じる。

そのために生活のほとんどを仕事に費やしてきた。

だから患者の顔を覚えていなくても当然だと思い自分を納得させた。

二度目に会ったのは翌日、勤めている病院の近くだった。少年は思いつめたような顔でうつむいて歩いていた。

「どうしたんだい」

思わず声をかけると少年はうつむいて言った。この間より疲れて生気がないように見える。

「何かあったのかね」

思わず訪ねると、

「知り合いを訪ねてきたのだけど見つからないんだ、それにお財布を落としちゃってお腹がすいて」

泣きそうな顔で言った。

その顔を見ただけで自然に言葉が出た。

「じゃあ、おごってあげよう。何がいい?」

と言うと、ぱっと顔を輝かせて、

「肉」

と言った。

うなずいたが、自分にはほとんど知った店がないのに気づいた。

自分は優秀だと太鼓判を押される外科医だが、人付き合いがない。

見回すとファミレスの看板が目に入ったのでそこに入った。

少年は運ばれてきた水を一気に飲んでしまった。

砂漠で遭難した人のような飲み方で、自分が譲ってあげた分も同じように飲んだ。

でもここは砂漠じゃないのになんでこん飲み方をするのだろう。

その時少年が大声で言った。

「先生、先生は手術で僕を助けてくれたのになんで忘れちゃうの」

ウエイトレスがちらりとこちらを見た。

病院の近くでもあるので医者だと認識されたようだ。少しほっとした。第一印象が悪いのはわかっているので、ステーキで子供をたぶらかす輩ではないのはわかってもらえたようだ。

「どこから来たの」

声を落として聞くと、驚いたことに少年も合わせるように声を落として、

「九州、だけど住所をなくしちゃって」

よほどお腹がすいていたのだろうガツガツという感じであっという間に肉を平らげてしまった。

「わかるところまで送ってあげよう」

外に出ると春先なのにやけに寒く、あっという間に暗くなり、少年も不安そうにあたりをきょろきょろ見回している。