クンロクを入れるとはもともと相撲用語で、脅迫めいた説諭として使う隠語だ。
また昭和から平成にかけてヤクザ者の間でも若い者を警察に出頭させる際「余計なことは喋るな」と言い聞かせることをいう。
若い捜査員は管理官の姿を見て、威風堂々とした迫力と、スーツの着こなし、腕時計、靴、ベルトすべてが新鮮なのである。
実は管理官、出身地の御前市で古くからテーラーとして全国的にその名を知らしめている「ツジヤ」でスーツを仕立てていた。ツジヤはイギリスの老舗メーカーの代理店で、生地の光沢が違う。耐久性は二〇年、仕立て代は仮縫いも含めて二〇万円と安くはないが、二〇年着られるので、トータルすれば安いと東郷は感じていた。
身長一八二センチ、体重は一〇〇キロを優に超え、頭髪は二ミリのパンチパーマで決めていた。靴は、個人の靴職人に特注し、革底ウイングチップで頑丈なEEEEを作ってもらって、内側に名前を金色刺繍で入れている。
暴力団事務所にガサに入った時、靴を脱ぐが、一目で管理官の靴であると組側にも分かった。
いろんな革靴と混じると、靴の縫製や革の繊細さが際立って分かる。ガサでも一目置かれる存在であった。
帰り際に組の若い衆が管理官の靴をそろえ、出船に直す姿があった。組幹部が総出で管理官を見送る姿を若手捜査員が憧憬のまなざしで同じように見送る。
「いつかは俺も」と思わせる人物であった。