彼女の突然の告白に、返す言葉が見つからなかった。そのころの「母子家庭」という言葉には、今では想像できないくらいのもの悲しい響きがあった。
父親不在の理由は、認知されないケースもあれば、離婚、死別もあるだろう。
稼ぎ頭の父が不在となれば、母が働くしかない。男女の待遇差が当たり前の賃金の安い職場。休むことなく朝から晩まで働いて何とかぎりぎりの生活を維持する。生活は困窮し、母娘はどんどん疲弊していく。そんな毎日を想起させた。
私はそれまで知る「てる」から想像もしていなかった。制服はいつもきれいに洗濯されていたし、身ぎれいで清潔感があった。
なぜか制服の胸についている赤いリボンは夏冬問わず向かって左の端が跳ねていた。本人も気にしていたのだろう。いつも片手でそれを直しながら話をしていたのが印象的だった。
私は親の勝手な期待ゆえに、ほしい問題集や参考書があれば好きなだけ買ってもらえた。高校受験のための塾だって、頼まなくても行かせてもらえた。そんな自分の境遇を平井君と比較して気後れしていたのが恥ずかしくなった。
何より私には「てる」が眩しかった。
貧しかろうと何だろうと、自分の「好き」があって、必死で追いかけようとする姿。
それがいかに素晴らしいことか知らされた。
次回更新は7月29日(水)、11時の予定です。
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