卒業式での奇跡
時を同じくして、奇跡と思えるような経験をした。
同窓会会長として母校の高校卒業式に来賓として出席した時のことだ。長髪を束ね、仕立てたばかりの「誉田屋源兵衛謹製」の背中に蜘蛛の巣が大きく刺繍された黒の着物姿で式に臨んだ。
来賓のほとんどが「おめでとうございます」の一言で済ますところを、「月並みでも少しでも心に響けば」と自身が卒業した時の心情を交え一分弱で吐露した。
「今日ここにいる卒業生のほとんどが晴れやかな気持ちでいることでしょう。しかし、中には受験に失敗したり、第一志望校に行けなくて忸怩たる思いでいる人もいるかもしれません。
中には、二度と母校の門をくぐるまいと決意している人もいるかもしれません。何を隠そう、40年前の3年G組の長嶋雄一君がそうでした。
何の因果か、今は同窓会長として、同期の誰よりも母校のことを思い活動しています。人生とはこんなものです。
今日晴れ晴れとしている方は、今日のこの気持ちを忘れず、何となく卒業する方はこれを機に卒業することの意味を、もがいている人がいれば一旦気持ちをリセットし、今日の門出を誇りと自信を持って旅立っていくことを願います」
式は粛々と進行し、クライマックスは卒業生代表S君の答辞だった。
冗談交じりの一風変わった謝辞の最中、突如として沈黙が訪れた。
「間違ったか?」
「何を企んでいるのか?」。
誰しもそう思ったに違いない。しばしの沈黙を破ってS君が発した言葉は何と、「今日分かりました。将来僕が何になりたいのか、同窓会長です!」
その瞬間、会場が大爆笑の渦に。
厳かに淡々と進行していくのが卒業式だ。
予定調和の卒業式が笑いあり涙ありの皆が忘れられない卒業式になった。
S君は僕の職業や素性、経歴を知る由もなく、和装した変わった風貌の大先輩くらいの認識だったに違いない。
僕の一体何が彼を感化したのだろう。
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