「俺は、勘違いを、していた。君の涙の意味を、何も分かっていなかった。君を守りたいと言いながら、俺は結局、自分の弱さを隠すことばかり、考えていたんだ」

「雅彦さん……」

「俺はな、よし子。強い夫で、いたかったんだ。弱った姿を、君に見せたくなかった。子どもの頃から父に『男は弱音を吐くな』と育てられて……情けない姿を見せたら、君に愛想を尽かされると、本気でそう思っていた。倒れたことが、悔しくて、恥ずかしくて、たまらなかった」

よし子は、首を横に振った。涙でぐしゃぐしゃの顔で、何度も、首を振った。

「弱くても、いいの。一緒に怖がって、一緒に泣いて、一緒に乗り越えればいいの。夫婦って、そういうものでしょう。強いあなたも、弱いあなたも、ぜんぶ、私のものなのよ」

二人は、正志の写真の前で、長いあいだ、抱き合って泣いた。写真の中の正志は、やっぱり穏やかに、二人を見守っていた。

(ずっと、こうして話せばよかった。怖いと、ただ怖いと、そう言えばよかった。意地も、強がりも、夫婦の間には、何ひとつ、要らなかったのに)

やがて雅彦が、ぽつりと言った。

「教えてくれ、よし子。これから俺は、どうすればいい」

「……一緒に、ゆっくり治しましょう。二人で。もう、一人で抱え込まないで。私、あなたとおばあちゃんになるまで、ずっと、ずっと一緒にいたいの」

窓の外が、少しずつ、白んでいた。長い夜が明けて、二人の朝が、もう一度、始まろうとしていた。

 

 

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