翌朝、雅彦はよし子に告げた。

「俺は、しばらく別の部屋で寝ることにする」

「えっ……どうして」

「君を、これ以上、しんどくさせたくない」

雅彦は、よし子の目を見なかった。

「……ゆうべ、見たんだ。君が、正志さんの写真の前で泣いているのを。君は、まだ彼を想っているんだろう。俺なんかと一緒にいるから、君は苦労ばかりする。倒れて、心配ばかりかけて。俺は、正志さんの代わりにも、なれない」

その瞬間、よし子の中で、ずっと張りつめていた糸が、ぷつりと、切れた。

「違う!」

自分でも驚くほど、大きな声が出た。

「違う。違うのよ、雅彦さん。私が正志の写真の前で泣いていたのは――あなたを失うのが、怖いからよ!」

雅彦が、目を見開いた。

「正志を看取った時、私は何もできなかった。日に日に痩せていく夫を、ただ見ていることしか、できなかった。あの無力さが、あの後悔が、私はずっと、忘れられないの。だから今度こそ、ちゃんと、あなたを守りたかった。一日でも長く、あなたと一緒にいたかった。なのにあなたは無理ばかりして、強がってばかりで……!」

声が、ぼろぼろに崩れていった。

「私、あなたにいなくなってほしくない。お願いだから、私を一人にしないで。一人にしないでよ……!」

よし子は、その場に泣き崩れた。

雅彦が、ゆっくりと、よし子のそばに膝をついた。そして、震える肩を、そっと抱き寄せた。

「……すまなかった」

雅彦の声も、震えていた。