【前回の記事を読む】雪に閉ざされた屋敷で行われる富豪の葬儀…唯一の出入り口である橋が故障し、参列者全員が孤立。しかも直前に“不穏な一言”が…

第一章 爬虫類の棲む屋敷

「いったい……。いったい、どちらにおいででしょうか……」

激しい雪の降りしきるなか、フードを目深に被った防寒着姿の男は、ただただ呆然と立ちすくんでいた。

小刻みに震えているのは寒さではなく、きっと哀しみのせい。

涙はおろか、吐く息さえも凍りつき、雪の上に落ちていきそうな絶望を漂わせていた。

「返事をー。どうか返事をしてくださいませーっ」

その絶叫は風とともに何処かへと運ばれてゆく。

男の後ろには、自身がつけた足跡が残っているだけだった。

「そうだ。早く戻って支度もしないと……」

強風が吹き荒れ、無防備な顔へと目がけて結晶が突き刺さる。

男は、血が滲むくらい唇を噛むと、体中についた雪を払った。

第二章 不穏な夜

『山吹屋敷』

当主・山吹(やまぶき)慎之介(しんのすけ)の所有する個人の邸宅で、上空からうかがうと、見事なまでに正四角形をしている。

山吹は高校を卒業後、単身、上京を果たすと、北欧からの輸入雑貨店を立ち上げ、瞬く間に、店を拡大していった。

もともと商才のあった彼は、小売業だけに留まらず、人材派遣会社や旅行会社、飲食店に、ペットショップをも手がけ、若くして莫大な財を成すまでに至った。

良縁と子宝にも恵まれ、まさに順風満帆であった、ある日のこと。買い物の帰りだった妻を交通事故で失ってしまい、男手ひとつで、娘たちを結婚するまで育てあげた。

やがて、いつしか時は過ぎ、歳とともに院政を退いたあとは、ここ生まれ育った故郷の鳥取へと戻り、経営不振に陥った温泉旅館を買い取って更地にし、さながら難攻不落の城塞を思わせる、この山吹屋敷を築くと、ゴルフやマリンスポーツを趣味にして、大勢の使用人たちと静かに隠居生活を送っていた。――が。

たまたま東京へとパーティーの席に呼ばれた折、アイドルグループの一員として活動していた女性に一目惚れをしてしまい、喜寿を迎えた年に、二度目の結婚へとこぎ着けた。

その新しい妻は、タレントとしての仕事もあることから、半別居の状態ながらも、しあわせな日々を送っていた最中(さなか)。山吹は無念にも不治の病に倒れ、その長く波乱に満ちた生涯に幕を下ろし、このたびの機会となったのであった。