薫子は手始めに鞍馬にあって閻魔を本尊としている引接寺(いんじょうじ)に行ってみた。乾隆校前(けんりゅうこうまえ)でバスを降りて歩くこと二分ほどで引接寺の千本ゑんま堂に着いた。赤い提灯で装飾されているお堂の中には、閻魔大王が口を大きく開け太い舌を見せている像が鎮座している。

〈こりゃ、怖いわな。あの男が言った通りやわ〉

薫子はこれから会おうとする閻魔がこれほどまでに怖そうで迫力があるのかと思うと、首筋の辺りがゾクっとするのを感じないわけにはいかなかった。寺務所でお札を買い、門前の「豆政」で季節外れではあるが豆まき用の豆を分けて貰い、名物の蒟蒻煮も仕入れた。蒟蒻は閻魔が抜いた舌だと言われ、裏表がない正直な人になることが願掛けられている。

薫子は閻魔が地蔵菩薩の化身であるとする話を頼りに、今度は京都市周辺に点在する地蔵菩薩を本尊とする寺を巡り御守り札を集めることにした。

鞍馬口(くらまぐち)地蔵、常盤(ときわ)地蔵、桂(かつら)地蔵、鳥羽(とば)地蔵、伏見(ふしみ)六地蔵、山科(やましな)地蔵が京の六地蔵巡りとして観光名所になっている。

初めは全てが大善寺(だいぜんじ)に安置されていたが、後に地蔵菩薩を深く信仰した後白河天皇の世に、平清盛(たいらのきよもり)の命で都の守りとして京の町に入る街道口に分けて祀ったことで、京の都の周辺に六地蔵が点在しているのである。

薫子は手始めに引接寺から近くにある上善寺(じょうぜんじ)の鞍馬口地蔵を訪ねることにした。

鞍馬街道はその昔、若狭の国へ通ずる街道であった。徒歩で南に下ったところにある上善寺は阿弥陀如来を本尊としているが、明治維新の際に深泥池(みどろがいけ)の畔にあった地蔵を持ってきて安置したと寺史に残っている。

この六地蔵は平安時代初期に小野篁が冥界で地蔵菩薩に会ったことで、桜の木で一木造(いちぼくづくり) の地蔵を六つ彫ったのが始まりとされていると、地蔵の由来を記した説明書きに書いてあった。それを読んだ薫子は、

〈やっぱり樹に頼んで正解やったわ。ここにも篁が出てきたわ〉

と、驚いた。

 

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