【前回の記事を読む】「ベッドに手が縛り付けてあったの」夜中に息子の名前を呼び続けた92歳の母。このまま入院が続けば……

第3章 再びの骨折と老いの現実に向かう

同じ道を繰り返す恐怖

九十二歳で大腿部頸部を骨折したが、その後の経過も予想以上に良好で、母に注ぐ私の時間も減っていった。だが、その二年後に母は右肩骨折で寝込んでしまった。

明け方、「ドスン!」という大きな音とともに

「痛い! 痛い! 助けて!」

という母の叫び声にベッドから身を起こした。トイレの前でうつぶせに倒れて動けない母の姿が目に入った。近寄ると顔付近に直径十センチ大の血だまりができている。かなりの出血だ。抱え起こしベッドに座らせ出血箇所の確認をした。顔から床に突っ込んだようで口の中を切っている。鼻血も出ていたようだが間もなく出血は収まった。

「今度こけて骨折したら命がない」

と自分で言い続けてきた母だ。骨折したかもしれないという不安感でいっぱいだったろう。

右手が痛くて動かないようだ。骨折かも?と不安がよぎる。車椅子に母を乗せ近所の総合病院で診断を受けた。骨折していた。複雑骨折ではなくポキンと折れている状態だ。手術は必要ないとのことで三角巾で右腕を固定し、骨が付くのを待つという説明でホッとした。

それにしても母の回復力には目を見張った。二週間目のレントゲン画像で骨が付き始め四週間目で三角巾も不要になった。

骨粗しょう症で骨がスカスカだと言われて久しい母の骨が新たに形成されている。しかもそのスピードは「成人男性と変わらない」速さ。どうして? 内科医から処方されたビタミンD剤を五年近く毎日服用している。その効果なのかよくわからない。

歩くという行為は危険なもの。私が所属する大阪市北区の「介護家族の会」(月一回の交流会実施)では「うちのお母さんは歩けるが、転倒すると怖いので家の中では四つん這いで移動してます」と言う人もいる。よほど意志が強くなければできないことだと思う。理想的にはそれが最適な答えだと思うが。