「あの子はね、弱い自分を見せるのが、何より怖いんだよ」

「弱い自分……?」

「雅彦の父親は、それは厳しい人でね。『男は弱音を吐くな』と、そう言ってあの子を育てた。だからあの子は、しんどいときほど、平気な顔をする。『大丈夫だ』が、口癖になってしまったの」

千鶴は、編みかけのマフラーに、そっと目を落とした。

「あの子の『大丈夫だ』はね、よし子さん。たいてい、嘘なんだよ。本当は、誰よりも怖がりで、寂しがり屋。倒れて一番こたえているのは、たぶん、あの子自身。……あの子の嘘を見抜いてやれるのは、もう、あなただけなんだよ」

千鶴の言葉が、よし子の胸に、深く刺さった。私は、雅彦の『大丈夫』を、ただ鵜呑みにしていた。その奥にある、本当の声を、聞こうとして、いなかった。

よし子の胸が、ぎゅっと締めつけられた。

その夜、よし子は、雅彦の寝顔を、じっと見つめた。穏やかな寝顔。でも、起きているときの雅彦は、もう何日も、笑っていない。

(私は、この人の何を、守れているんだろう)

二人の間に、見えない壁が、また静かに、そびえ始めていた。

 

 

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