晋作は長崎から幕府の帆船千歳丸(せんざいまる)に乗って上海に行くことになった。晋作とって長崎は初めての土地である。晋作は乗船を待つ間に長崎の全てを見聞し尽くそうとあちこち歩き回った。

そして長崎の色町で十六歳の小柄な若い芸伎小雪に出会った。小雪は目が青みがかった色白でぽっちゃりした小柄な娘で、牛や豚の塩漬けや干し肉を鍋料理にしたり、牛や豚の肉片を入れて胡椒をきかせて味付けしたスープを作った。また菜種油を上手に使いこなして豆腐や野菜炒めを手作りする特技も持っていた。

小雪は、自分はオランダ人の父と日本人の母の混血だと言う。

晋作は幾松の純日本流とは違う、この若芸伎の風情(ふぜい)が如何にも国際都市長崎らしく思え心惹かれた。

晋作は到着前から異国上海への強い渇きを覚え、小雪にのめり込んでその乾きを癒やそうとした。藩から貰った相当な額の渡航費で懐が暖かかったこともあろうが、気が大きくなった晋作は小雪を身請けした。

小雪は気が強く、弾けるような肉体と達者な三味線が魅力だった。

芸伎には珍しくハキハキものを言ってキビキビ動き、加えて、上海租界地事情やオランダ事情も詳しかった。

自分の知識は二つ下の弟の利助が出島に勤めていた頃に弟から聞いた話だと言う。

小雪の馴染み客の一人に出島関連の道楽息子がいた。佐渡島の干し海鼠を上海に輸出して財を成した越前屋の若旦那だった。

越前屋は、名前の通り越前佐渡島の商人で今も島に本店があり、出島のある長崎には上海との取引の関係上若旦那の祖父の時代に進出してきていた。

若旦那は三味線も達者で晋作とウマの合う三十絡みの遊び人でもあった。

若旦那は小雪の腹違いの兄だという噂もあり、小雪が幼い頃から小雪を知っていた。

肉料理が好きな若旦那は清国から船が来たといっては胡椒や塩で漬けた肉を土産に持ってきて宴会を開いた。小雪がこしらえる豚肉や牛肉の煮込み、チャーハンなどを気に入っていて、晋作が小雪を身請けした後も小雪に調理をねだった。

建前上は幕府直轄地の長崎港は肉食禁止だが、出島ではオランダ人がパンと肉を主食にしていることから、裕福な商人の間では公然の秘密として豚肉や牛肉が食べられていた。

晋作は小雪の世話で港が見える丘に小さな一軒屋を借りて住んでいた。越前屋の若旦那がやってくると、いつもこの家で肉料理の宴会が開かれ、晋作が三味線を弾き歌いながら賑やかな談笑が繰り広げられた。

小雪は大酒飲みで金使いも荒かったが、煮炊きもテキパキやり、何よりも晋作が宿に招いた出島関係者との接待を楽しみながら三味線を鮮やかに弾きこなす器用な点が気に入っていた。

 

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