【前回の記事を読む】「私を助けてくれなかった」…いじめられた経験を持つ少女は自分を守ることで必死だった。“標的”も自ら選び出すことにした。
4.アダプト
標的を選ぶのは、思ったより複雑な作業だった。
スクールカーストの底辺を選べばいい、という単純な話ではない。底辺を攻撃してもリターンが少ない。それに底辺の人間を攻撃しているという事実が、いずれ自分のイメージを損ねる。加減を知らないと思われる。品がないと思われる。いじめに手を出す時点で品もクソもないのだが。
選ぶべきは、弱みを抱えているが表面上はそれを隠している、ちょうどいいポジションの人間だ。
私はリサーチした。
これが本当に骨の折れる作業だった。好きでもない人間と話す。その会話の中から情報を拾う。笑いながら相手の言葉を精査する。どこに地雷があるか。何を触れられたくないか。家庭の様子は。友人関係は。過去に何かあったか。SNSはどれを使っているか。投稿の頻度は。いいねをくれる人間は誰か。
SNSというのは便利な道具だ。人間は承認欲求の前で驚くほど無防備になる。鍵もかけずに内面を晒す。家族との関係、友人へのほのめかし、自分でも気づいていない劣等感が、投稿の隅々に滲んでいる。それを私は丁寧に読んだ。下着を覗くような後ろめたさは、三日で消えた。
標的を定めたのは、2年の秋口だった。
名前すらも覚えていないその人は目立たないが、それなりに居場所を持っていた。成績は中程度。友人は少数。家庭環境に、私がちょうど1年前に持っていたものと似た翳りがあった。投稿の端々に、承認されたがっている気配があった。それでいて、それを必死に隠そうとしている形跡もあった。
私に似ていた。
似ていたから選んだ。
整理してみると自分でも少し気持ちが悪い。でも事実だからしょうがない。弱点のある人間の弱点の在り処を1番よく知っているのは、同じ弱点を持っていた人間だ。私は標的の痛みのありかを、地図を見るように把握できた。
始め方も計算した。
大きな一撃は必要ない。最初は小さな距離感でいい。最初から決定打を与える必要などないのだ。
まずは会話を軽く流す。まずは視線を一瞬だけ違う方向に向ける。それだけだ。人間は繊細だから、小さな信号を読む。「あれ、なんか変だな」という感覚が植え付けられれば、あとは自動的に動いていく。
伏見と中村は、私が動き始めてから3週間もしないうちに同じように動き出した。
自分で考えることを放棄した人間というのは、群れの動きに本当に忠実だ。なぜその標的が避けられているのかを考えない。誰かが避けているから避ける。それだけだ。
理由より空気を読む。空気の読み方だけが異常に発達した、思考停止の群れ。便利な道具だ。気持ちがいい。
ただし道具は、使い方を誤ると自分に向く。その点は常に念頭に置いていた。