【前回記事を読む】直後、轟音がした。機動隊が学生排除活動を始めたのだ。助教授たちが泣きながら、立て籠り学生たちを窓から放り出して…
風の部 霧は、アンダンテで流れ行く
第二章
暗闇のなか退去した一団はゾロゾロと歩き始めたが、その姿は敗残兵のようだった。
行き先は、近くにある県立大学の教室だった。窓から一人ずつ入ると、そこにはやって来る一団のための食料や飲み物が用意されていた。
黒板を背に一人の女性活動家が、眼光鋭く一団を見回して低い声で話し始めた。アジ演説とはまったく違う響きだった。人の壁が厚く、ひろしにはよく聞こえない。ただ、なんだかわからない組織に入れられそうだと思い、ともかく早く杏子のアパートへ帰りたかった。逃亡する気分だった。
一団から離れて杏子のアパートへと戻ろうとしたひろしに、他大学の活動家だろう男が近づいてきて、小さなメモを渡しながら「この電話番号へ必ず電話してくれ」と言った。
第三章
大学は休校のまま、木枯らしが吹くようになった。
あちこちの大学で学園闘争や反体制活動がますます活発になり、騒騒しい世の中になっていた。そのせいで大学は休校が続き、ひろしはアルバイトと時々の麻雀で日々を過ごしていた。
以前と変わらない毎日だが、一つだけ変わったことがある。
それはあの日、渡されたメモの番号に電話したことから始まった。ある雑居ビルの地下で、数人と時々酒を飲むようになったのだ。地下のその部屋は隣がジャズ喫茶で、モダンジャズの音がいつもうるさいぐらいに鳴っていた。