本山優子には、3つの顔があった。
スピリチュアルな探求者。自然派の信徒。教育熱心な母。最悪の三拍子が揃い踏み。
この3つが互いに矛盾しながら、奇妙に補い合いながら、本山家という密閉された宇宙を支配していた。
理科の授業で「地球は丸い」と習った翌日のことを、私は今でも1コマ残らず再生できる。
給食のあと、先生が地球儀を取り出した。私は何の気なしに言った。
「うちのお母さんは地球は平らだって言ってる」
ただそれだけだ。何の悪意もなかった。本当に、ただそれだけだった。
教室が凍った。
先生が困った顔をした。隣の女の子が小声で何かを言った。聞こえなかったが、分かった。その日の帰り道、誰も一緒に帰ってくれなかった。わずか8歳の私には、その沈黙はあまりに重すぎた。
その夜、私は『大地』という言葉を覚えた。
「地球じゃない。大地でしょ。私たちが立っているのは大地。そういう嘘を学校では教えるから困る」
声は静かだった。でも目が笑っていなかった。私はそれ以来、学校で自分の舌に見張りを立てた。あの凍結を、2度と経験したくなかった。まっぴらごめんだった。
あの人が地平論の集会に通い始めたのは、私が小学2年生の頃だ。最初は月に1度。やがて週に1度になり、帰宅するたびに「今日ね、本当のことを教えてもらった」と瞳を輝かせた。ママ友のグループラインで既読スルーが増えた頃、彼女の外出先はその集会だけになった。
私には後で分かった。あの人はそこへ、居場所を求めて行っていたのだ。真実があるかどうかなど関係なく。というより真実など、最初からどうでもよかったのかもしれない。居場所さえあれば、地球が平らでも丸くてもよかったのだ。私にはその気持ちが理解できた。だから余計に、腹が立った。
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