「大丈夫か? 心がいきなり混乱してないか?」と、聞かれた。

タイミングを見てくれていた事が、本当によく分かった。

モヤモヤしていたのは妹の私だけではなく、兄も同じだった。だから、その言葉を聞いた時は更に涙が出た。

「いや、自信は無いかな」と、兄の居ない日常が想像できず、本音を言ってしまった。すると、

「そうだよな。引っ越して来て、この辺に知り合いも、仲が良い人もいないから、そこが一番心配だったんだよね」と。私に早くから不安を持たせないように、気にしてくれていた。

幸せな報告を後回しにしてまで、心配をしてくれていた。大事にしてもらっているのだと、すごく伝わって来た。今は何も考えず、ただ幸せでいてほしいのに。 

私だって気付いていたはずなのに……情けなかった。

私はこの先、心配をかけないよう絶対に強くなる。心配をかけないよう絶対に頑張る。

『とにかく心配をかけたくない』と、頭の中で繰り返していた。

私は両手を強く握った。これ以上、【心配の涙】を見せないと自分に誓った。だから、

「来週会えるんだね! お兄ちゃんの大切な人に!」と、精一杯つくった笑顔で言った。

早く会いたい。兄に不思議なオーラをくれている人に。

5「一番幸せになってほしい人 〜時が止まった編 福涙〜」

「はるちゃん!」

我が家では、はるちゃんと呼ぶようになっていた。

そして出て行ったはずなのに兄の物は減らず、むしろ増えていった。

新しいコップ、新しいタオル、新しいスリッパ。必ずはるちゃんの分も買うよ

うになっていた。

私は二十歳の時に病気をした。三歳年上の兄はずっと私の側に居てくれた。

心に寄り添ってくれ、前を向けるようになるまで、一体どれだけ自分の時間を犠牲にしてくれたのだろうか。ごめんね……。

感情が優先して泣いてばっかりな日があったり、受け入れられなかったり。

私の心はやたらと忙しかった。これからを想像すると寂しかった……。

思い返すと、はるちゃんが来た日は時計を何度も気にし、ソワソワして、ドキドキして落ち着けないでいた。

「大丈夫、落ち着いて! 疲れちゃうよ? お茶でも入れようか?」と、母が声を掛けてくれていた。とにかくウロウロしていた私は、愛犬を抱っこしながら、

「父さんも母さんも、もう知ってるじゃん! 私だけ初めてだもん! 緊張するよ!?」と、落ち着いていられなかった。そしていよいよ、

「ピンポーン」と、インターホンが鳴った。

兄がはるちゃんを連れて来た。

その時だ。何もかも吹き飛んだのは。あまりにも似た空気を感じて、ビックリしたのだ。あの時の、あの瞬間。なんて言葉にすれば良いのか全然分からない。

人生で初めて時が止まった気がした。特別な一瞬を経験した。

きっと、1秒もかからなかった。丁寧な挨拶をしてくれる前に、もう受け入れていた。頭の中で、

『よくぞお兄ちゃんと出会ってくれた! こんなにピッタリな人が! 本当にいるんだな、運命の人って。きちんと存在しているのだ。この人以外は受け入れられない! この人以上の人っているのかな?』と、思うほどだった。

 

👉『涙の種類』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】ホテルへ向かう車で何度も「まずいなあ、はまっちゃうよ」…選ぶ相手は既婚者ばかりだった。

【注目記事】58歳の誕生日、8時間の出張サービス利用で息子ほど年の離れたセラピストとホテルへ。1時間もしないうちにシャワーを浴び…

 

ゴールドライフオンラインは、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp