時間が早いので練習している奴は、誰もいなく静かだ。会長と石田トレーナーが、事務所で何か話し合っている。俺は手渡された手紙をその場で開けてみた。
白い封筒の端に桜のシールが貼ってあり清楚な感じを受ける。優しい女の子らしい文字で、『寺門ボクシングジム内、新山好次様』と書いてある。
封筒を裏返す。「牧村千江美」。女の子の名前だ。
今までもらったファンレターは男ばかりで小学生からおじさんまでと年齢もさまざまだったが、さすがに女性からは一度もない。
三枚の桜模様の便箋に、どうして俺のファンになったかの経緯や俺のどんなところが好きかなどが書いてあった。
“ふーん。珍しい”
そういえば試合前、女の子が二人練習を見に来ていたような気がする。
試合直前で、最後の調整に入り周りがまったく見えていなかった。その子たちがしばらくして、また見学に来た。
会長から「相手をしてやれ」と言われたので、練習後に行きつけの喫茶店へ誘った。
見た限り、まだ高校生くらいの子供だ。なんでボクシングなんかに興味を持ったのだろう。アイドルとか俳優とか女子高生が夢中になるのは、他にもいくらだってありそうだ。
不思議だったが、もちろん悪い気はしない。
練習後、シャワーを浴びていると後輩の船山に声をかけられた。
「あの女の子たち、先輩のファンですか?」
「そうらしいな」
「強くなると、あんな女の子のファンができるんですか? いいなぁ。俺も頑張ろうかな」
「知るかよ。お前なぁ、何のためにボクシングをしてるんだ?」
照れ隠しに、捨てゼリフのように問いかけた。