寝付かれなかった僕が玄関を開けると不安気な顔をした沙耶伽が立っていた。この日は夕方から雪が降り始め、夜半過ぎには辺り一面を白銀の世界に変えていた。

「お父さんがまだ帰って来ないの」

沙耶伽が訴えるように僕を見た。

「どうした?」

おやじとおふくろが僕の背中越しに声を掛ける。

「お父さんが夕方出ていったきり戻ってこないんです。こんな時間までやっているお店なんかないし、外は雪が降っているし」

時計を見ると時間は二時を回っていた。昼間、友達からの苛めにも凛としていた沙耶伽が、泣きそうな顔でおじさんを心配していた。

「とにかく入って」

おふくろに促され沙耶伽は三和土(たたき)を上がった。おやじは服を着込んで雪の町に飛び出し、おふくろは台所で甘酒を温めなおした。

たまに走る車のスパイクタイヤが道路を叩く。気持ちが削られるような音が、夜のしじまに響いた。炬燵にあたりながら、彼女がポツリと言った。

「昼間はありがとう」

彼女と二人きりで言葉を交わすのはいつ以来だろう。

「律くんが助けてくれるなんて思わなかった」僕は慌てて話題を変えた。

「雪が降ってきたから、おじさんきっとどこかに避難してるんだよ。ほんと、人騒がせだよな」

沙耶伽にお礼を言われるのが照れ臭かった。

 

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長い階段を転げ落ち、亡くなっていた。誰にも気づかれないまま、おじさんの身体には朝まで雪が降り積もり…

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