「ごめんよ。調子が悪いもんだから、気が立ってるんだよ」
すまなそうに言うたい子に結城はぞっとするようなことを言う。
「一日も早く病院で診てもらわないと手遅れになるのであります」
陰のオーラ全開で結城はまたパトロールへと歩き出す。
「ちょ、ちょっと、結城ちゃん……」
たい子は戸惑いながらその背中を見送ったのである。
それからすぐに八百屋のシャッターに、『都合により、しばらく休業いたします』という紙が貼られた。パトロールから息せき切って帰ってきたハコ長が、近所で聞いた情報を話す。
「八百屋の旦那さんが入院したそうだ。なんでももう少し遅かったら、手遅れだったと。わしも気を付けにゃ」
ぶるぶる震えて見せるハコ長の話を、結城はただ黙って聞いていたのである。
しばらくして八百屋はまた店を開けた。結城がパトロールで通りかかると、バイトらしい若者がたい子を手伝っている。結城の姿を見つけるなり、たい子はぱたぱたと太った体を揺すって駆け寄り、目を潤ませながら言う。
「ありがとね、結城ちゃん。あんたのお陰だよ。あの後、嫌がる亭主を引きずって病院に行ったんだよ。そしたら即入院でさ」
「お役に立てて何よりであります」
結城は小さく頭を下げる。たい子はうん、うん、と頷いてから少し不思議そうに頬に手を当てて尋ねる。
「でも、なんで亭主の病気がわかったんだい?」
「ご主人、最近痩せてきておられましたし、顔色も良くなかったので、そのつぼを押して確認したのであります」
「あんた、若いのにつぼなんてわかるのかい?」
たい子はしきりに感心しつつ、
「うちの亭主なんかのこと、ちゃんと見ててくれてたんだねえ」
そうしみじみと言う。結城にすれば別に大したことではないのだ。結城はこの町の人々の顔はすべて把握しているし、鮎造からはその病特有の臭いがした。
たい子が褒めるので気恥ずかしくなったのか、小さく会釈すると結城はまたゆらゆらとパトロールに戻っていったのである。
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