はちきれそうな腹をダンスミュージックに合わせて叩きながら、優は大きくため息をついた。

「あー、もう、こんな医局、辞めちまおうかな。いつになったら内視鏡治療出来るんだよ」

「え、スーさんそれ言います? 冗談でも聞きたくないですよ」

力弥が口を尖らせた。

「僕、スーさんに誘われてうちの医局に入ったんですよ。最初は外科に行こうと思ってたのに。今さらスーさんが抜けたら、俺、どうすりゃいいんですか」

「すまんすまん、冗談だって。博士号をもらうまでは、どうにも身動きが取れないからな」

「へー。博士号、そんなに欲しいもんですか?」

力弥は、少し真顔になった。

「正直、僕は別にいらないかな。もらったところで給料が上がるわけでもないし、臨床やる分には関係ないですよね?」

「そういうとこだよ、力弥君」

優はニヤリと笑って、焼けたホルモンをタレにくぐらせた。

「俺も医者になってもうすぐ10年だけどさ。やっぱ次のステップを考えると、博士号は避けて通れないよ。博士号がないと、講師以上には絶対になれない。大学病院に残ろうと思ったら、それがルールなんだ」

「え、大学で出世なんて考えてるんですか?」

力弥が真顔で驚く。

「意外っすね。さすが大学教授の息子。そういうの、血なんですかね。僕はどっちかっていうと、開業とか田舎の病院とかで、のんびりやるのもいいかなって思ってますけど。その方が正直、儲かるし」

焼けたホルモンの煙がもうもうと立ちこめる。店内はいつの間にか満席で、隣の席のサラリーマンたちの会話が騒がしく響いていた。この店の中では、教授の悪口も医局への不満も、すべて煙と騒音に紛れてしまう。このホルモン屋を出れば二人は蛇ににらまれたカエルのように囀ることすらできない。

 

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