「体上部小弯(しょうわん)で15ミリなら、東教授じゃ一括切除は無理でしょう」
近年、内視鏡治療は大きく進歩した。今まではスネアという輪っかで縛りあげるだけであったが、吸引や牽引(けんいん)を駆使した切除方法も登場した。内視鏡医の腕次第では、大きな病変も一括切除することが可能となってきた。ただあくまでも腕次第だ。
「それにしたって、あのおっさん、なんでやりたがるのかね。治療以外の内視鏡はほとんどやらないのに」
優は、焼けたホルモンをつまみながら吠えた。
「この前なんか、治療が終わった途端に研究会に行きやがって、患者の診察すらしなかった。あれじゃ患者もかわいそうだよな」
「そんなに言うなら、スーさんが教授にガツンといったらいいんですよ」
「なんでだよ。まさか俺にやらせろってか?」
「まあ、そんなこと言えないっすよね」
力弥は、少し黙ったあとで再び口を開いた。
「……確かに、東教授は研究だけで、臨床には興味ないですよね。だけど、EMRだけは自分でやる。不思議ですよね」
東の関心は常に肝臓、常に研究にあり、他の諸事には無関心であった。それでも、胃のEMRだけは例外だった。他の誰にも任せず、自ら執刀する。専門外にもかかわらず、だ。
「でも、穿孔はほとんど見たことないですよね。というか、教授が胃に穴を開けたなんて話、聞いたことないかも」
そう言って力弥は席を立ってトイレに向かった。優の心の中には、焦げた脂よりももっと苦々しいものがくすぶっていた。