当時はまだ六十五歳になった高齢者を隔離する、例の忌まわしい政策は始まっていなかった。
「……親父の頃までは、故郷を枕に死ねたんだなァ」
「グズグズ言ってる場合じゃない。行くぞ」
十人は波を立てぬように注意して泳いだ。泳いでいる位置から陸までの距離はおよそ五キロ。
しばらく泳ぎ続けていたが、違和感を覚えた一人が「みんな、静かに!」と声を上げた。
泳ぐのを止め、あたりの様子をうかがうと自分たちの周りに大きな黒い影が動いていた。「これって……」
「サメに囲まれているかもしれないな」
だが、それでも十人は冷静だった。十人は身を寄せ合い、固まって泳ぎ始めた。
五メートル近くあるその大きな影は、その後も十人のあとをつけてきた。
「しつこいな」
「仕方ない。撃退してくるよ」
誰かがそう言い残し、影の近くへ泳ぎ寄った。そしてそのまま、彼は戻らなかった。
そのうち、影も暗い海中に身をやつし、どこに行ったか分からなくなった。
九人は顔を強張らせ、再び泳ぎ始めた。目的の成就のため、振り返ることは許されなかった。
どのくらい時が経っただろう。ついに、彼らは夜の海を泳ぎ切った。
早足で浜辺に上がると緊張を途切らせぬまま手近な岩陰に直行し、寄り集まって身を潜めた。
誰かが声を殺して言った。
「落ち着け」
「落ち着いてるよ」
「嘘をつけ。さッきから身体が震えているじゃないか」
もう決して戻ってくることはないと思っていた本土。抑えきれない感動が涙や身体の震え、声の上擦りに表れていた。
だが、次の瞬間。九人の視界をまたも白い閃光が瞬いた。咄嗟に顔を背けるも、次々と違う方角から強い光に照らし出される。
――囲まれているッ?
ぐるりと取り囲む無数の光源が徐々に近づいてくる。
逃げ道は無い。
「もう……駄目だ」
一人、また一人と砂地に膝をついた。