この領域はまだ広く知られておらず、科学的にもようやく解明が進み始めたばかりである。一般市民におけるこの概念の認知度は極めて低い。
これは、商業的な情報発信において、菌株の定着性や生存率といった定量的情報が優先的に報道され、代謝物の質的・機能的側面が軽視されてきたことに起因すると考えられる。また、代謝物の製造工程や測定技術が複雑で高コストであることも、この分野の研究と普及の遅れにつながっている。
本書では、その疑問を一つひとつ明らかにし、なぜ「乳酸菌そのもの」ではなく、「乳酸菌が生み出す代謝物」が主役なのか、また、それがどのように免疫や老化、日常の不調に関わっているのかを、 30年以上現場で研究と製造に関わってきた私自身の視点から解説する。
本書の目的と新たなパラダイム
本書では、腸内細菌叢と宿主間の相互作用を、代謝物を介した情報伝達システムとして捉える新しいパラダイムを提示する。複雑な生化学的現象を一般読者にも理解可能な形で解説し、比喩や事例を用いながら、腸内環境の動的平衡とその調節機構について論じてみる。
私は長年の試行錯誤の末、SLIC1c6(1)のような高機能代謝物の開発に至った。それは、老化し機能低下した腸に代わって、もう一度身体に語りかける第二の情報物質である。
健康の維持・増進は、単純な腸内菌数の増加ではなく、適切な代謝産物による生体内情報伝達の最適化によって達成される。この科学的知見に基づいた新たな健康観の構築こそが、現代社会における真の予防医学の実践につながると考える。
従来の概念的枠組みを超越し、腸内細菌叢の生理学的機能の本質に迫る探求を、ここに開始する。その一滴の価値を理解し、これからの健康を自らの手で見直すきっかけとなることを心から願っている。
脚注1 Secreted Liquid of Intestinal Culture(腸内細菌の分泌液)
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