【前回記事を読む】歴代天皇の寿命は、延長操作されていたのか──!? 江戸時代後期から約150年研究しても答えが出ない、日本最古の歴史書の謎
第一章 序論――紀年論の問題
(一‐一)紀年延長操作は行われていない
従来の紀年論研究への疑問
書紀編纂者による恣意的な紀年延長は確実なのでしょうか。
『書紀』成立の頃、本当に讖緯思想・辛酉革命説は信じられていたのでしょうか。
この素朴な疑問に答えてくれるのは小林敏男氏の「日本書紀の紀年論」(『日本古代国家形成史考』所収)です。
小林氏はそれまでに報告された膨大な研究論文や書を網羅的に調べ上げ、紀年の恣意的な延長はあり得ないとの結論に至りました。
那珂説批判の主たる論拠は、次の二点に絞られます。
第一の点:神武天皇が橿原の宮で即位したのを国家的革命と考えるのはまあいいとして、それより一蔀降(くだ)った推古朝辛酉年に、斑鳩に都が置かれたのを国家的革命と見るわけにはいきません。
さらに、『書紀』全体を見渡しても辛酉年を特別意識した形跡は認められません。
第二の点:『古事記』も『書紀』と同様に上古天皇の長寿を記録しています。
この場合、『古事記』は編年体を採っていませんので、長寿は紀年とは無関係です。
従って長寿は在位年数(つまり紀年)の恣意的延長によるのではなく、原史料にすでにあったと考えるべきです。