その性癖はデータではなく現物で残されていたため、隠しフォルダもパスワードもなく、引き摺り出されたジョーカーの衣装・遺品は、今でも嫌がらせのように、お供え物よろしく神棚の近くに保存されている。

私の父の必殺のエピソードときたらそれなのだから、そんな我が父の影を、目の前に妻子を掲げてひた走るこの運転手の上に重ねてしまうと、何とも言えない倒錯した思いが頭をもたげてきて、妙な心地になるのだ。

空の光が強ければ強いほど、地の影も大きく広がるもの。

なればこそ、我が実家の神棚のスペースを、あれ以上に広げる必要はないのである。

ともすれば、そのうち制服だらけで足の踏み場がなくなってしまうのだから。

「私もお父さんっ子なんですよ」

一人でアンニュイに耽っていた私を余所に、クロ子が話を進めていた。

「へぇ、それはお父さん嬉しいでしょう」

「う~ん、変わった父親なんで嬉しいのかどうかわかんないですね」

「どう変わってるんです?」

「そうですね、代表的な変な話がひとつありますよ」クロ子は尊敬する父の話を訥々と語り始めた。

友人のクロ子は離島の生まれであった。

その島は人口数十人程度の小さな島で、島民全員が顔見知り。そこでクロ子の父、クロ吉は武術の師範をやっていた。

島民はみんな、質実剛健で男らしいクロ吉に一目置いていた。クロ子も「男に二言はない」というような父を尊敬していた。

人望の厚いクロ吉は津波対策組合の副長もやっていた。