腹を空かせてそんなことを考えながら丘を上り切った二人の右手、東の草原から数頭の馬と荷馬車が現れるのが見えた。武装した武人もいるようだ。リョウは一瞬、身を隠そうかと思ったが、先方もすでにこちらを認識しているだろう。敵か、味方か、リョウにはわからなかったが、突厥の隊商のようにも見えた。
もう南に戻ることもできず、食べ物もなくなっていた。逃げ隠れしてもどうにもならないと覚悟したリョウは、不安を押し殺し、わずかな希望を胸に、そちらに向かって馬をゆっくりと進めた。
リョウとシメンが遭遇したのは、やはり突厥の一団だったが、武装していたのは先頭の二騎だけで、後ろには小さめの荷馬車が一台と、大きな荷を乗せた二頭の馬が続き、平服の男たちがその手綱を引いていた。唐の村での交易の帰りなのだろう。弓を持ったリョウを警戒してか、先頭の武人が駆け寄ってきたので、リョウは敵意のないことを示すために馬を下りて待った。
その武人が何か語り掛けてきたが、その言葉は理解できなかった。身振り手振りで西に向かっていることを伝えていると、荷馬車の手綱を曳いていた平服の男が近づいてきて、漢語で話しかけてきた。
ホッとして、「訳があって西に向かいたい」と言うと、一瞬、考える顔をしたが、結局その言葉をそのまま武人に通訳してくれたようだった。武人は、リョウたちに一緒についてくるように言った。
通訳をしてくれた男は、自分を「張」と名乗っただけで、後は一言も発しなかった。リョウたちも無言でその後ろを進んでいった。集団は西北に進み、やがて高い丘を越えると、眼下に大きな河が見えてきた。それは初めて目にする黄河だった。
丘の斜面に、右に左にと曲がりながら川に下りる道ができていた。突厥の一団はその先の船着き場を目指してきたのだと、張がようやく口を開いて教えてくれた。父親より少し年上のように見える張は、口数こそ少ないが、その話しかけてくる眼に険しさはなく、リョウは少しホッとした。
近づくほどにその河は大きさを増し、リョウとシメンは思わず「すごい」と大きな声を出した。父はこの河を何度となく渡ったのだろうと思うと、父がどうなったか心配になったが、今は、目の前の河を渡らなければならない怖さのほうが先だった。
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