美咲の目から涙がこぼれた。慌てて袖で拭い、天ぷらを口に詰め込んだ。

「……ちゃんと揚げてるし。まあ、お母さんの揚げ物ほどじゃないけど」

それが美咲なりの休戦の合図だと、よし子には分かった。

(美咲……ありがとう)

食事の後、3人で旅館の中を回った。雅彦が丁寧に説明し、美咲は興味がなさそうなふりをしながらも、温泉の源泉には「すごい」と小さく声を上げた。

帰りのバス停まで見送りに行った。雅彦は少し離れて歩いている。気を遣ってくれているのだろう。

バスが見えてきた時、美咲がぽつりと言った。

「お母さんが笑ってるの、久しぶりに見た」

よし子は足を止めた。

「この旅館に来てから、お母さん、声が明るくなったなって思ってた。あの人のおかげなのかもね」

「美咲——」

「お父さんのことは忘れないで。それだけ約束して」

「もちろんよ。絶対に忘れない」

美咲はリュックの紐をぎゅっと握った。

「……まだ完全にOKなわけじゃないから。でも、いきなり反対してごめん」

バスが来た。美咲はステップに足をかけ、振り返った。目が少し赤かった。

「あの人の岩魚、もう1回食べてもいい」

ドアが閉まり、バスが走り出した。よし子はバスの後ろ姿が見えなくなるまで手を振った。涙で前が見えなかった。

後ろから雅彦が歩み寄り、よし子の肩に手を置いた。

「いい娘さんですね」

「……ええ。自慢の娘です」

 

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