「やはりそうか。セリナオの添付文書や厚労省の報告書を調べてみたが、怪しい点は見つからなかった。……改ざんの証拠があるとしたら製薬会社の内部か」
「そうだな。レイスの広報資料、治験報告書、第三者機関の論文を当たって、関係者を洗い出してみるよ」
「頼んだ。俺はセリナオの認可に関わった厚労省の審査官を」
「だめだ!」
田中が語気を強め、土橋の言葉を遮った。
「厚労省には、いや、政府には、まだ俺達の動きを知られたくない」
「何言ってるんだ! こうしている間にも、被害者は増え続けているんだぞ! そんな悠長なこと言ってられるか」
土橋も声を荒らげる。場に緊迫した空気が流れるが、田中は首を横に振り、否定の意を示し続ける。
「土橋、はやる気持ちはよく分かる。でも落ち着け。俺達だけは冷静に、慎重に、行動しなければならない。相手は国家だ。俺達の動きがバレたら妨害されるに決まっている。そうやって、これまでにどれだけの薬害がなかったことにされてきたか知ってるだろ? 大胆さと投げやりは違うんだよ。自分を簡単に投げ出そうとするな。
……命を賭けるのは今じゃない。確証を掴んでからだ。お前なら分かるだろ?」
土橋は強く目を閉じ、もどかしさを絞り出すように「すまない」と言った。
「田中の言う通りだ。俺達は失敗できない。おそらくチャンスは一度きり。だから、確かに命を賭けるのは今じゃない。……でもな、田中。俺は薬害の悲惨さを訴えるメールを読む度に胸が張り裂けそうになる。何の寄る辺もなく、助けもない暗闇の中で、声すら上げられずに、ギリギリの状態で闘っている人達がいる。……俺は悔しいよ、田中」
土橋が、頭を抱え、声を震わせながらそう言った。
「分かるよ、土橋。俺だってもう我慢の限界だ。でもな……」
田中が自分を諭すようにそう言う。
「俺達のその正義感の中に、ほんの少しでも、投げやりさや、考えたり悩んだりすることから解放されたいっていう焦りや甘えがあったら、それが命取りになると思うんだ。……だからこそ慎重に、でも、時に大胆に、できることを全部やり尽くそう」
土橋は、熱意の裏側にはびこるもどかしさと焦りに苦笑いを浮かべた。
「……そうだな。田中が協力してくれてほんと良かった。……証拠集め、頼んだぞ。俺は、引き続き被害者の声を集めて、資料にまとめておく。お互い、人事を尽くそう」
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