ドアが開くと、私には目も触れず一目散にテーブルの上にある自分の好きなミニカーを手に取り、自分の部屋のように遊び始めました。遅れてご両親と保健師が入ってきた時には、すでにミニカーは床に散らかっています。
私が「C君、こんにちは」と言っても、こっちを見ようともせず、一心不乱にミニカーで遊んでいます。
すると、C君が「あっ、フェアレディーZだ」と言ってパトカーを手に取りました。
そのパトカーは確かにフェアレディーZです。おまけに、C君は、「にっさん」と断言しました。完璧です。
私が「よく知っているね」と褒めても照れるわけでもなく、振り向きもせず、「あっ、プリウスだ」と次のミニカーを手に取ります。
非常にマイペースです。お子さんの行動に対してどうして良いかわからずに、呆然と立ち尽くしている親御さんたちに、私は「C君のお父さんお母さんですね。初めまして、小児科の鈴木です」とここで初めて自己紹介をし、「どうぞソファーにお座りください」と、まず座らせて心を落ち着かせてもらうことにしました。
大切なお子さんのことですから、感情的になったり、動揺しやすくなったりするのは当然ですが、普段のお子さんの様子を落ち着いて、ありのままに喋ってもらうことが診断では大切です。お子さんのことを一番近くで見ている親御さんの情報というのは、正確な診断をする上で、大きな助けとなるからです。
「何が一番心配ですか?」と私が聞くと、C君のご両親はお互い顔を見合わせました。そして、「言葉が出なく、落ち着きがないことです。勝手に他人の物も触ってしまいます」と迷わず母親が答えました。
その後も乳幼児期の行動からさまざまな質問に母親が答えてくれましたが、「お母さんお父さんどちらに似たのですか?」と尋ねると初めてそこで父親が声を発したのです。
「俺かな?」
「お父さんのご両親、つまりC君の祖父母のどちらに似ていると思いますか?」
「親父だな、一人で勝手にどこか行ってしまうし、自分の趣味にどんどんお金を使っていたから。自己中心的で、マイペースなところはそっくりだな」
車という一つの分野に対する知識の深さ、会話がマイペースなところを鑑かんがみて、C君は自閉スペクトラム症ではないかと推測しました。