02 1992年 池袋 なっつんの噂

池袋の夜には、いくつもの影が潜んでいる。

ちらつくテレクラのネオンに、雑居ビルの階段裏にこびり付いた安酒の臭い。まるで迷路の断片が互いに溶け合い、得体の知れない液体のように淀んでいる。誰もが場所だけは知っているつもりだが、中身は意外と知らない。ここでは言葉より先に視線が交わり、沈黙が意思を伝達する。

そんな池袋の闇の奥底で、濃密な黒をまとうように囁かれる名がある―なっつん。

女子高生たちは深夜のマックでポテトをつまみながら、小声でその名前を転がす。いつの間にか噂は独り歩きし、この街をすり抜ける冷たい風のように広がっていく。

「ロサ会館の前で見たって人がいる」

「西口公園の公衆電話付近にもいた」

「マルイにも出没するらしい」

皆、違うことを言う。それでも彼女たちは確信めいた熱を帯びている。

「テレクラより安全で、しかも稼げるらしい」

「自分で相手を選べるんだって」

「ただ、ルールを破ったらアウト」

 

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