「そしてとうとう、どう見ても装飾品としか思えない角のペンダントと貝のビーズ、化粧品らしきレッドオーカーの顔料までも。
とどめは、ヒトの頭が獅子頭となった呪術めいた象牙の彫り物と、ながれるように彩色されたヒトと動物の洞窟画。これはもう芸術だよ。
そうだ、なにかが起きた、破壊だ。壁の爆破だ。つまり、これが『文化の爆発』なんだ!」
高ぶった不意の叫び声に、一瞬だけラウンジの目がこちらに集まった。
この文化の主は、正式名称がヒト属のホモ・サピエンス・サピエンス。
われわれ現生人類の直接の先祖だが、いまからおよそ二十万年前頃に、ホモ・サピエンス・イダルトゥから枝分かれをしたという。
「そのイダルトゥはどこへ?」
「枝分かれから五万年ほどして絶滅ね。理由は分からないよ。しかし、ホモ・サピエンスも『文化の爆発』がなければ、いずれはおなじ運命だったかもしれない」と、学者は冷静にもどった。
唯井は現生人類が当然のように生き物の頂点に立ったとばかり思っていたが、そうでもなさそうだ。よく分からないなにかが幸いしたのだが、へたをすればイダルトゥの二の舞いだ。まあその方が地球全体を俯瞰すれば幸せだったろう。
「《ゆい》さんは『文化の爆発』がなぜ起こったのか、だいたい想像はつくかな?」