【前回記事を読む】スペインでは、1年に1度だけ大切な人に「バラ」を送る文化があるが…日本人の私に毎年贈られてくるものとは…

第一章 春

ツツジ

♫『恋するフォーチュンクッキー』(AKB48)

今年のゴールデン・ウィークは、十連休の人もいたようだ。新型コロナの感染が始まって、三年以上になる。マスクの着用はまだ続きそうだが、行動制限の無い大型連休は三年ぶりだ。明るい日差しの下、黄金週間の申し子然と咲き誇るのは、様々な種類のツツジだ。

市役所の中のレストランで昼食を済ませ、南側の歩道の手前に何列か行儀よく並ぶツツジに目を向けると、デコレーション・ケーキに見えてきた。

白い花の中に、赤やピンクの濃淡が点在している。イチゴや他のベリー類が、生クリームの上に飾られたかのように。

ひらひらと初夏の風にそよぐツツジの花びらは、AKB48の少女達のミニスカートを連想させる。『恋するフォーチュンクッキー』のビデオ・クリップを視聴した。軽快なヴォーカルとダンスだ。市井の老若男女が踊る姿も効果的に割り込み、少女達の可愛らしさが随所に光る。海外でもブレイクした道理がわかるプロモーション・ビデオだ。

ケーキにまつわる思い出がある。旅の途中だった。遊覧船を降りると、カフェがあり、何種類かのケーキがショーケースに並んでいた。一切れの大きさが普通の二倍ほどもあり、花模様の飾りが華やかだ。

興奮した私達四人は、違うケーキを注文した。白いお皿に鎮座するケーキを一口食べて、右隣の人に渡す。また一口食べて、隣へ。これを繰り返して、皆が四種類のケーキを賞味したのだった。

町中に移動して、高層ビルの最上階までエレベーターに乗った。降りると、自動ドアが開いて、黒いスーツの案内係の男性が立ちはだかった。「お客様。ホテルに戻って、着替えて、出直していただけますか?」

入店を断られた、その有名なレストランで、海に沈む夕陽を眺めながら食事をすると、この上なくロマンティックである、と旅行案内書に書かれていた。ホテルに戻っても、ポロシャツと半ズボンしかない私達は、道路で落日を迎えた。西オーストラリア州の州都、パースでの話。大きなケーキとインド洋の日没は、南半球の潮風の町の記憶の一ページである。

ツツジの季節が終わる。隣の庭の赤いキリシマツツジを一つ摘んで、唇で挟んで吸ってみた。向田邦子著『寺内貫太郎一家』(新潮文庫)の「いたずら」で、タメさんがチュッと蜜を吸ったように。優しい甘みが舌の上で小さく広がって、すぐに消えた。(令和四年七月三日)