第一部 自分史とことわざ
(1) 自分史の効用
人生をもう一度生きる
「自分史は何のために書くのか? 書くことで何が得られるのか?」
そんな問いを受けることがあります。私の答えは、こうです。まず、自分の過去を記録として残せること。これは日記のように、自分にとっては備忘録になりますし、読む人にとっては、過去の出来事を知る手がかりとなり、時には感謝されることもあります。
そして何より、自分史を書くことは「人生をもう一度生きる」ことなのです。これは、私自身が書いてみて初めて実感したことですが、自分史を書くことには、思いがけない楽しさがあります。過去を振り返り、再体験し、再発見する―、それはまさに、人生をもう一度味わう喜びです。
この体験は、いわば「第二の人生」と呼べるかもしれません。一般に「第二の人生」と言えば、退職後の新しい生活を指すことが多いのですが、私がここで言うのは少し違います。これは、第一の人生―つまりこれまで歩んできた人生を、もう一度やり直すという意味です。
もちろん、現実には過去をやり直すことはできません。「覆水盆に返らず」です。しかし、文章の世界では、それが可能になるのです。
第一の人生では、仕事にしても遊びにしても、日々の忙しさの中で駆け抜けてきました。まるで高速道路を走る車のように、目的地だけを目指して進み、沿道の美しい風景に目を向ける余裕もなく、立ち止まることもできません。でも、自分史を書くという行為は、その道をもう一度旅することです。今度は運転ではなく、乗客として。
ゆっくりと景色を眺め、気になる場所があれば途中下車して、じっくりと見学することもできるのです。そうして過去をたどっていくと、当時は気づかなかったことが見えてきます。例えば、あのときのだれかの何気ない言葉や行動―なぜそんなことを言ったのか、自分はどう感じ、どう反応したのか。そういう細部が、今になって鮮やかに浮かび上がってくるのです。
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