それからいろんな話をした。

前園さんは、東京生まれの東京育ちであることや、旅行をしていろんな場所のいろんなものを食べるのが好きであること、音楽を聴くのが趣味であるものの、祖父の影響で演歌ばかり聴くために、最近の流行には疎いことを教えてくれた。時代の最先端をいっているように見えていたために、そこをいじると肩を殴られた。

小さい頃に犬に足を噛まれたせいで、犬が怖くて近づけないのも意外だった。プラネタリウムでは寝てしまうため、絶対に行かないようにしているらしい。遊園地のお化け屋敷は好きだが、ジェットコースタ―は怖くて乗れないらしい。

ダイエットは三日も続かないと言うので、それは思った通りだと伝えると、また肩を殴られた。どう見てもスリム体形な彼女に、ダイエットをする必要がないのではと言うと、先ほど殴った肩を撫でてくれた。僕は久々に腹を抱えて笑った。ずっと腹の奥にあった暗い色の靄が、徐々に晴れていくような感じがした。

友達の証として、前園さんは自分のことを『明里』と、下の名前で呼ぶように言った。少し困ったような表情をする僕に、彼女は駄々をこねて懇願してきた。

しばしの押し問答の末に、恥ずかしいが、僕は彼女を『明里さん』と呼ぶことにした。じきに慣れるだろう。

「この店内の装飾、すごくいいね」

「ほんと?」

僕が褒めるのに、明里さんはこれまでにないくらい嬉しそうに言った。

「うん。自然に溢れていて、ここが一つの森みたい。都内は騒がしいから、こういう場所があると、都会の人は安らげるし、田舎から出てきた人は懐かしい感じがして、みんな楽しめるんだろうな」

明里さんは、僕の目を見ないまま嬉しそうな表情を見せる。まるで照れているような感じで。そこを僕が指摘すると、彼女はまた大声でギャーギャーと騒ぎ立てた。

「そりゃあ、照れるよ」

「どうして?」

自分が働いているアルバイト先を褒められても、僕はなんとも思わない。彼女は相当この場所が好きなのだろうか。僕の考えは、彼女から発せられた言葉によって簡単に吹き飛ばされ、さらに自分の耳を疑った。

「ここ、私がデザインしたの」

「……え?」

「だから、そんなに褒められると嬉しくて、やっぱりさ、口コミなんかでもさー」

「ちょちょちょ、ちょっと待って……。え、ここ明里さんがデザインしたの?」

「うん、そうだよ」

驚きを隠せず話を遮った僕に、彼女はきょとんとした顔で、さぞ当たり前かのように答えた。

「いや、え……、すごいね」

「いや、私だけじゃないよ? 一人ではここまでできないよ。私が作ったのはデザインだけ。それが構造上可能なデザインなのかどうかとか、どこに厨房やテーブルや階段を設置するのかとか、材木とか、配管とか、そういうのいろいろ含めたら、私だけじゃできないよ」

次回更新は5月26日(火)、11時の予定です。

 

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