【前回の記事を読む】高校生時代にできた子どもを、必死に隠してきた——「受け止めてくれる」と信じた相手に、初めて打ち明けてみた結果……
第五章
意外にも人間性や性格が変わった瞬間というのは、地味であっけないものだ。もっと歓喜するべきなのかもしれないが、前園さんは変わらず静かに俯いている。どうしてそんな表情をしているのか。晴れて友達となったのだから、その権限をもって訊くべきだろうか。それとも、あえて詮索しない方がいいのだろうか。
三年ぶりの友達という存在に、僕の身体は急には慣れてくれない。
「そっか、そうだったんだ」
「え? なにが?」
「ううん。私、優くんが抱えているものを知らずに、ひどいこと言っちゃった。ごめんね」
前園さんは本当に申し訳といった様子の表情を滲ませる。
「いや、僕が必死に隠したんだもん。前園さんは悪くないよ」
「でも……」
「結果的に、前園さんのおかげで今の僕がいる。だからありがとう」
依然として複雑そうな表情は変えてくれない。責任を感じさせてしまったのだろうか。そう思ったら、今度はパッと明るい表情を見せた。
「ねえ、私も協力していいかな? 友達として」
「協力?」
「うん! だってさ、優くんは遥香さんを探したいんだよね? なんとしてでも会いたいんでしょ?」
「そうだね。会ってちゃんと謝りたいんだ。逃げたことも、遥香に頼ってしまったことも、目を背けてしまったことも、全部」
「それなら友人の協力は必要じゃない?」
前のめりになる前園さんに、これまでの僕だったら、きっと抱かないであろう願いが浮かんだ。そして、これまでの僕だったら、きっと言わないであろうことを素直に口に出してみた。
「ぜひ、お願いします」
これまでずっと見てきた前園さんの笑顔が輝く。やったやったと、嬉しそうに言う彼女は、もう僕が知っている彼女だった。
「そうとなれば、当たって砕けるのみ! だね」
「え? 砕ける前提なの?」
「何事も最悪を想像すれば、意外と現実はそれほど大事にならなかったりするものだよ」
「そうか……。そうなのかな?」
「はいはい、細かいことは考えない!」
アイスコーヒーが底をつきそうだ。僕は少し考えた後に、おかわりをいただくことにした。前園さんも同じようにした。