薫子の誕生日は九月二十六日だ。それまでに手立てを講じなければ、脅しに屈するしか方法がなくなる。意地を張り通せば薫子もいねも死ぬことになる。

「ねえ、樹。冥界の入口ってどこだか知ってる?」

「お前な、京都人ならそれくらいだれでも知っとるわ。六道の辻や。それがどないしたん」

樹が馬鹿にした顔で答えた。

「訳あって冥界に行って閻魔に会わないといけなくなってな。手伝ってくれへんか」

「どないな訳や」

「それは言えんわ。嫌ならええよ。私、一人でやるわ」

「そないな言い方、良くないよ。そこまで言っておいて『ええよ』なんて。手伝うがな、暇やし。で、何をすればええ?」

樹はお遊び感覚で乗ってきた。理由などどうでもいいという感じだ。薫子も察して、

〈こっちは遊びじゃないわ。命がかかっているんや〉

と、思ったが口には出せない。

「図書館に行って小野篁(おののたかむら)がどないして冥界に行ったか調べてくれへんか」

「ああ、ええよ」

樹の返事はこれまた簡単だった。

「冥界の地図なんかあったらそれも」

「分かった」

「あんた、よう、そないに簡単に引き受けるな」

薫子は樹の軽さが気に入らない。

「何言うてんの。俺んとこは小野篁の子孫の家やで。蔵に古文書が仰山あるし。おまえ、知っとって頼んでおったんじゃないのかい」

「えっ、あんた、あの小野篁の子孫なの!」

薫子は初めて聞く話にびっくりした。

「そうやで。俺はその小野家の次の当主や」

樹は少し胸を張って答えた。