日差しと共に聞こえる小鳥の声。
目を覚ますと、ちゃぶ台を囲むような形で佐久間くんと藍原さんが眠っていた。きっと酒をあおって盛り上がり、そのまま全員が寝落ちた形なのだろう。
少し涼しく感じながら外へ出ると、先生が大量の野菜が入った段ボールを抱えていた。
「起きたか。ちょっと手ぇ貸してくれ」
「どうしたんですか? そんな大量に」
「農家やってるやつから貰ってよ。まだまだあるんだ」
僕は先生の抱えていた野菜を半分貰い、後をついていった。
「ほれ、お前も」
僕は先生につられて、ニンジンを手に取り、すすぎ始めた。
しばらく野菜を洗っていると、先生が唐突に口を開く。
「イシミヤ、一つ聞いてもいいか?」
「一宮です。何ですか?」
先生がジャガイモを擦る手を止める。
「お前、なんで作家になろうって思ってんだ?」
僕もニンジンを持ったまま少し固まった。
「少し、長めにしゃべらせてもらってもいいですか?」
「おう、それが聞きたくて聞いたんだから」
僕はザルにニンジンを置いて、また蛇口をひねった。
「僕、高校で演劇部に入ってまして、当時オリジナルの舞台をやろうってなっていたのですが誰も演目の案を出そうとしなかったんですよ。そんな時に白羽の矢が立ったのが僕だったんです。幸い学生時代は本を読んでばかりいたもんで、アイデアには困らなかったんです」
僕は思い出しながら話していたが、だんだんと申し訳なくなってきた。
「だから、その……その時は、なぁなぁというか、成り行きみたいなものでして」
先生がもう一度、口を開く。
「最初は誰しもそんなもんだ。じゃあ、今お前が文章を書いている明確な理由ってのは、なんだ?」
「明確な理由……ですか」
一つ深呼吸を入れてから、また口を開く。
「わかりません。少なくとも、僕の中にはないです。でも……」
僕は先生の方を向き、言葉を続ける。
「約束した人がいるんです。最高の夢を見せるって……その人との約束のために、ペンを握れるんです」
先生は何かを察したように微笑んで、僕の肩を叩いた。
「そうか……お前はいい作家になるよ」
後ろの方で襖が開く音がした。振り返ると佐久間くんが寝そべりながら顔を出していた。
「……何の話してるんすか?」
「ガキにはわかんねぇ話だ。顔洗ってこい」
そんなのってねぇよなぁ、と愚痴を漏らしながら、佐久間くんは洗面台の方へ向かう。
僕は笑いながら先生と一緒に野菜を洗い続けた。