【前回の記事を読む】「あの……どこに向かってるんですか?」「お前、金に困ってんだろ。」豪雨の中、山の奥地まで連れていかれて……

第三幕 きづくこと

ふと、後ろのちゃぶ台に置いてある原稿用紙が気になった。

「こちらは?」

水場で顔をすすいでいた先生がこちらを向く。

「あぁ、それは俺のだ。置きっぱなしにしてたんだなぁ」

先生は、そそくさとそれを片付けようとするが、僕はそれを遮った。

「あの……それ、見せてもらっても構いませんか?」

「ああ、別にいいが……」

先生が原稿を手渡す。

「書いてて違和感がぬぐえなくてな……どうにも上手いこといかん」

「みんなで見せ合ったりしてるんすよ。でも、叔父貴の言う違和感がどうにも見えなくって」

佐久間くんも口をはさんでくる。

僕は藍原さんに一つ、質問をした。

「監修は、皆さんでやられているんですか?」

「毎回そうです。これに関しても……何かありました?」

「ええ、ざっと目を通しただけですが……ここ、『申し上げさせていただきます』これだと敬語が重なっていて逆に不敬と取られてしまいます。それと、ここのセリフ回し。言っている言葉のわりに、未練たらたらって感じがします。僕なら……こうします」

僕は、読んでいて違和感を覚えたところを次々と列挙していった。

気づくと、横には先生と佐久間くんも覗き込んでいた。僕は慌てて先生に頭を下げた。

「すみません! いろいろずけずけと言ってしまって……」

「いえ、これは逸材ですよ……」

「いやぁ、俺も途中から聞いてたけどよ……モヤっとしてた場所が晴れたよ……」

先生と佐久間くん、それに藍原さんも、僕の直した文章を凝視して感嘆の声を漏らしていた。そして、試しにこれも見てくれるかと辞書ほどの分厚さをした量の原稿を僕に見せてきた。僕は妙に嬉しくなり、一晩中その原稿に向き合った。