(……これが、恋っていうんだ)

秋斗が髪をなで、もう一度唇が重なる。それだけで、2人の関係が少し大人のものに近づいた気がして妙な気恥ずかしさもあり、理子は少し体の距離を離して秋斗にたずねてみる。

「そろそろ、帰る……?」

「あと1回」

少し強引に唇が奪われて、そこでも身体全体が熱くなるのがわかる。理子はこれまでに感じたことのない新しい感情と感覚に、目を閉じてそれをただ享受していた。 

 

京弥のバーでの一件から数日後。千春は再び人事から呼び出されていた。会議室に入り、人事部長と担当者に向かい合う。

「まず、そちらの部門に新しい人員を補充することになった」

「え? っていうのは?」

「岩下君は、ここから6ヶ月間、休職となる」

「休職、ですか……?」

詳しい話を聞いてみると、岩下はストレスやその他の理由などから現在、休職の診断が出たらしい。

「君の周囲の人間に色々聞き取り調査を行ったが、岩下氏の言っていることはウソだと証言もしてくれている。中でも昨日聞き取りを行った吉川君が、君の人格と岩下氏が休職前に吉川君に漏らしていた愚痴などを証言してくれている」

部長が隣にいた担当者に目配せをして、担当者がパソコンの画面に視線を落とす。

「吉川君から受けた報告で、岩下さんはプライベートでも離婚の危機にあり、かなりストレスを抱えていたという内容もありました。産業医との面談でも、プライベートのストレスがかなり大きかったようだと診断されており、弊社側、水瀬さんの対応などに問題はなかったと考えています」

「そう、ですか……」

「それにしても、吉川君は、かなり水瀬さんを尊敬しているようですね。岩下さんからそういう愚痴を聞いた時に何かあるかも知れないと感じてすべて記録してくれていたそうです。細かい言い回しなども記載されていて、今回非常に頼りにさせていただきました」

岩下の心無い発言には心をえぐられたが、それ以上に人づてに聞く礼のことが気にかかった。

(聞き取りしたの、昨日だって言ってたな……。吉川君、あんなことがあっても、私の味方でいてくれたんだ……)