何日か経ち、ある大教室に立てこもっていた学生グループの誰かのコネで、ジャズピアニストが来るとの情報を得て、ひろしたち麻雀仲間はそのピケ中の教室に裏から入っていった。室内はタバコの煙がモウモウとしていて、床に座った学生たちの熱気で異様な雰囲気のなか、一升瓶と学食のものであろう茶椀があちこちを回っていた。

ジャズピアニストのコンサートは夕方6時から2時間ほど続いただろうか。2、3曲はピアノを打楽器のように弾いて、時々、鍵盤を肘で叩いていた。そのあと、学生運動のリーダーたちのアジテーションが深夜にまで及んだ。

大半の学生達は流れ解散となり、教室にはひろしを含む50〜60人ほどの学生が残った。大学側からの再三にわたる退去要求を、居座っていた学生たちは無視した。

深夜になり、ひろしが膝を抱えてウトウトしかけた頃、

「先ほど、M警察署から連絡があった。機動隊がこちらに向かってきていて、このまま居座れば一人ずつ逮捕されるだろう」

という学生委員長の声が聞こえた。彼は続けて、

「俺たちは居座るが、半分ほどは退去してこの運動を続けて欲しい!」と叫んでいた。

その場に静かな緊張感が漂う。

ひろしは、逮捕されれば大学は退学になり、就職も駄目になって親が心配すると思い、杏子のこともあって教室をあとにした。

その直後、機動隊による学生の排除活動が轟音とともに始まり、大学の助教授だろうか、関係者達ができる限りの立て篭もり学生を、泣きながら窓から放りだしているのをひろしは振り返り見ていた。

 

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